西から吹く風
霧の都ロンドンの華やぎをよそに、表情豊かな自然を愛し、詩情あふれる「ことば」をいつくしんできた英国人たち。そうした彼らの歌心を、輪郭あざやかな歌声に託して・・・フランスやドイツのそれとは違う、クィルターやウォ―ロックの味わい深い英国歌曲を、もしくはシェイクスピアの同時代人たちも楽しんだ、その時代の歌を、かの地で暮らした前田は、まるで室内楽のように。
演奏者
前田ヒロミツ(テノール)
三平 順子(ピアノ)
助川 太郎(ギター)
曲目
ロジャー・クィルター(1877-1953):三つのシェイクスピア歌曲
1. 来たれ、死よ(「十二夜」より)
2. おお、いとしい君(「十二夜」より)
3. 吹け、吹け、冬の風よ(「リア王」より)
ピーター・ウォーロック(1894-1930):
4. 晩夏
5. 男は何でも手に入れた
6. 子守歌
7. 西から吹く風
8. 眠り
9. 眠れ、かわいいニンフたち
トマス・キャンピオン(1567-1620):
10. 嵐にあった船も
ジョン・ダウランド(1562/63-1626):
11. おいで、甘い愛がよんでいる
ウィリアム・ヘンリー・モンク(1823-1889):
12. 主よ、我とともに
ロジャー・クィルター:
13. 優しい声は消えても音楽は
14. 深紅の花びらは眠り
15. 去年の薔薇
ベンジャミン・ブリテン(1913-1976):
16. サリー・ガーデンズ
ロジャー・クィルター:五つのシェイクスピア歌曲
17. 夏の暑さも今やもう(「シンベリン」より)
18. 緑の木の下で(「お気に召すまま」より)
19. それは恋人たち(「お気に召すまま」より)
20. その唇を遠ざけておくれ(「尺には尺を」より)
21. ヘイホー、おいらが子供の時には(「十二夜」より
この20年ほどのあいだで、英国のクラシック音楽に対する認識は日本でも大きく変わり、ヴォーン・ウィリアムズ、ディーリアス、エルガーら以外にも近代にすばらしい作曲家たちがいたということも、広く知られるようになってきました。
とはいえ「その土地ならでは」の音楽的美質は、どこかその土地の言葉と深く結びついているのかもしれません。
フォーレやプーランクの曲が、フランス語圏ならではの独特の味わいを秘めているのと同じく、英国音楽の魅力の粋は、やはり歌曲に…ピアノ伴奏ひとつ、歌声ひとつの形態に凝縮された音楽世界には、この国の(いろいろな意味で、国際語でもない、アメリカの言葉とも違う「英国の」)言語ならではの味わいが大きな意味を持っているようです。
ロンドン王立音楽院で研鑽を重ね、歌曲からバロック・オペラまで幅広いジャンルを手がける前田ヒロミツは、遠い憧れを静かに呼び覚ます美声で、考え抜かれた選曲の名品群の魅力を伝えてくれる…英国歌曲史に名高いクィルター、晩期ロマン派の多面的な名匠ウォーロックらの名品に混じり、雰囲気あふれるギター伴奏でのルネサンス曲が絶妙の「補助線」となり、プログラム全体の味わいをひときわ深いものにしています。
プロフィール
前田ヒロミツ(テノール)
国立音楽大学音楽学部声楽科卒業。
2000年に渡英、ロンドン英国王立音楽院大学院演奏ディプロマコース修了。セントオーバンス芸術祭では英語の歌曲を評価され、英語歌唱部門最優秀賞を受賞。英国、ヨーロッパ各地のコンサートや教会音楽のソリスト、アンサンブルメンバーとして活躍し2007年に帰国。知られざる英国歌曲のコンサートを積極的に行っている。